カオスの抑制・制御


非線形の系ではカオスはごく普通に現れるが,工学的な立場では,カオスはあまり好ましくないことが多い. すなわち,カオスにおいては挙動が初期値に敏感に依存し不規則に変動するので,系の長時間の挙動の予測が困難で, 系の動きに対する対応策を考えるのが難しい. そこで,ある系の示すカオスを抑制し,規則的なふるまいに変えてしまう方法についての研究が行われるようになった. この種の研究は一般に「カオス制御」と呼ばれるが,その先駆的なものが, ある種のフィードバック制御によってカオスを周期的運動に変えてしまおうとするOtt, Grebogi, Yorkeの研究[8]であった. その後,カオス制御に関する研究は,物理学,工学の分野で大きく発展しつつある. これらの研究には,対象系の出力データを用いて何らかのフィードバック制御を導入してカオスを抑制しようとするものの他に, 系に含まれるパラメータを変化させてカオスを抑制しようとするものも含まれる.この際,なるだけ小さい制御によって, あるいはなるだけ小さいパラメータ変化によってカオスの抑制が達成されることが望ましい. また,Ott, Grebogi, Yorkeの研究では少数の変数からなる系を対象にしたが, 最近では,結合振動子系・結合写像系などの多くの変数からなる自由度の大きい系で現れる時間・空間的なカオスの抑制に関する研究も盛んになりつつある.

参考文献:

[1] W.L.ディトウ&L.M.ペコラ,「カオスの制御と応用」, 日経サイエンス1993年10月号. pp62-71.
[2] 潮 俊光,「カオス制御」,(朝倉書店).
[3] E.Ott and M.Spano, "Controlling Chaos", Physics Today, May 1995, pp.34-40.
[4] A.Garfinkel, M.L.Spano, W.L.Ditto and J.N.Weiss, "Controlling Cardiac Chaos", Science, Vol.257, (1992), pp.1230-1235.
[5] T.Shinbrot, C.Grebogi, E.Ott and J.A.Yorke, "Using Small Perturbations to Control Chaos", Nature, Vol.363, (1993), pp.411-417.
[6] G.Chen and X.Dong, "From Chaos to Order --- Perspectives and Methodologies in Controlling Chaotic Nonlinear Dynamical Systems", International Journal of Bifurcation and Chaos, Vol.3,No.6, (1993), pp.1363-1409.
[7] H.G.Schuster(ed.), "Handbook of Chaos Control", Wiley-VCH, (1999).
[8] E.Ott, C.Grebogi, J.A.Yorke, "Controlling Chaos", Physical Review Letters, Vol.64, (1990), pp.1196-1199.