ソリトン


水面波は,その波長と水深の比の値によって性質が異なる.波長が水深よりもずっと大きい水面波は浅水波と呼ばれる. 波高/水深が比較的小さい場合の浅水波の時間発展は,Korteweg-de Vries方程式(K-dV方程式)と呼ばれる非線形方程式によってモデル化される. この方程式は,遠方で水面変位が0となる孤立波に対応する解をもつ.この解は非線形方程式の解でありながら, お互いの衝突によって個性を失わないという粒子的な特徴をもち,ソリトン(浅水波ソリトン)と呼ばれる.浅水波ソリトンは, 局在した水面の盛り上がりを表しており,波高が大きいほど伝播速度が大きい. また,大きいソリトンが小さいソリトンを追い越す相互作用の後では,各々の波形はもとに戻るが, 大きいソリトンは位置が少し前方にずれ,小さいソリトンは少し後方にずれる,という位相のずれが残る. 実際の水面波の実験でも,浅水波の孤立波の挙動がK-dV方程式の浅水波ソリトン解によってよく近似され, 確かに上記のソリトンの特徴をもつことがわかっている[2].

また,水面波のモデル方程式でソリトン解をもつものとしては,K-dV方程式の他に, 水深と同程度あるいは水深よりずっと短い波長をもつ非線形波に対する非線形シュレディンガー方程式がよく知られている. この方程式のソリトン解は,遠方で振幅が 0 に近づく波束の形をしており,包絡ソリトンとも呼ばれる.水面波の波束が, ある適当な条件の下で,お互いの衝突によって個性を失わないというソリトン的なふるまいをすることも実験で示されている.

さらに,密度が鉛直方向に変化している成層流体中の波(内部波と呼ばれる)も, 適当な条件の下ではソリトン的性質をもつことが知られており,水面波のときと同様の浅水波ソリトン,包絡ソリトンも存在する. また,内部波でのみ得られるソリトン解をもつモデル方程式としては,ベンジャミン・小野方程式がよく知られている. この方程式は,例えば密度の異なる薄い層と厚い層からなる二層流体での波のモデル方程式として導くことができる. そのソリトン解は,遠方における波高が波のピークの位置からの距離の2乗に逆比例してゆっくりと0に近づいていく特徴をもつことから, 代数的ソリトンとも呼ばれる[1][3].

参考文献:

[1] 船越満明 and 及川正行,「成層流体中の非線形波動」日本流体力学会誌 ながれ, 第8巻,第4号,(1989) pp.311-335.

[2] 船越満明,「孤立水面波」日本流体力学会誌 ながれ, 14巻,6号,(1995) pp.469-470

[3] 船越満明,「内部孤立波」日本流体力学会誌 ながれ, 14巻,6号,(1995) pp.468-469