一様な流れの中に円柱を流れに直角に置くと,円柱の下流側に互いに反対方向に回転する渦が交互に周期的に発生し,下流へと流されていく. その結果,互い違いに規則的に並んだ渦の列が下流側に見られるようになる. このような規則的な渦配置は,その安定性の解析を含む理論的研究がカルマンによって 点渦モデルを用いて行われたので, 一般にカルマン渦列と呼ばれる.
カルマン渦列は,流れの中に円柱以外の物体を置いても現れるが,円柱を用いた実験の場合には,円柱直径,一様流の速さ, 流体の動粘性係数から定義されるレイノルズ数が40から150の範囲にあるとき明確に見られる. このときの円柱後方での渦領域は,下の図(b)のように広がりをもち,しかも,その大きさは下流へ伝搬するにつれて増加していく. なお,レイノルズ数が150を超えてもカルマン渦列的な渦構造は依然として見られるが,流れは3次元的になり,渦発生の周期性も近似的なものとなる. また,大気中にもカルマン渦列型のパターンが現れることがあり,特に有名なのは,冬の北西季節風が強いときに済州島の下流側にできるものである.
関係論文:
カルマン渦列の点渦モデル
各々の列には強さが k と -k の点渦が等間隔に無限個並んでおり,異なる向きの点渦どうしは互い違いの配置になっている. この渦配置は全体として一定の速さで左方向に進む.2つの渦列間の距離を h, 同じ向きの点渦の間隔を a としたとき, この配置は,h/a の値が 0.2806 の時に限って安定であることがわかっている.
実験で得られた円柱後方のカルマン渦列の渦度場
流体中に入れた多数の微小粒子の動きをビデオカメラで撮影して,それを画像処理することにより, 各瞬間における近似的な速度場が求められる.それを数値微分することによって渦度場が得られる. この図は,レイノルズ数が 103 の場合であり,図の左側の外にある円柱からみて, 円柱直径の約 41 倍から 53 倍だけ後方の領域での渦度分布を示している. 正の渦度をもつ領域は青色で,負の渦度をもつ領域は緑色で表され,色が明るいほど渦度の絶対値が大きい. また,遠方での流体に固定した座標系における各格子点(白の点)での速度ベクトルを赤の線分で表示した.
関係文献:
[3] 烏谷 隆,船越満明, 星野スマ子,「画像解析システムによる円柱後流の渦度分布の研究」,九州大学応用力学研究所所報 第65号,(1987) pp.199-209.
[4] 日本流体力学会(編),「流れの可視化」,(朝倉書店,1996).